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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1857号 判決 1964年3月30日

控訴人(申請人) 小松美穂子

被控訴人(被申請人) 富士通信機製造株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。控訴人が被控訴人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮りに定める。被控訴人は控訴人に対し昭和三六年一月以降控訴人より被控訴人に対する労働契約関係存在確認請求事件の判決確定に至るまでの間、毎月二八日限り毎月七、四一〇円の金員の支払をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の陳述並びに疎明の関係は、左に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

附加する点は次のとおり。

一、控訴人の附加した陳述

(一)  解雇の相当性を判断するについては当事者間の利益の均衡をまず考えなければならないものであるところ、被控訴人は控訴人が本件解雇によつて蒙る損失およびその生活に対する打撃の甚大なるにも拘らず、これを何等顧慮することなく解雇を主張しているが、これは臨時工の実態を直視することなく、その実態を無視して形式的に解雇を主張しているもので不当である。

(二)  被控訴人は控訴人の欠勤日数は三五日であると主張するがこれは不当である。控訴人の欠勤日数は一四日である。このことは疏甲第一号証および第三号証により明らかであり、被控訴人提出援用にかかる疎乙第三号証の一乃至一二、第五号証の一乃至三、第八、第九号証の各一、二、第一〇号証、第一一号証の一乃至一四はいずれも被控訴人において本訴提起後に被控訴人の主張に合うように変造または新たに作成した疑があるから信用できない。

(三)  仮に控訴人の欠勤日数は三五日(内事故欠勤二七日)としても、控訴人は法律に従い必要な生理休暇をとる権利があり、その日数は月二回乃至三回が常識である。ところが被控訴会社は生理休暇を認めず、生理のため已むなく休暇をとるとこれをすべて事故欠勤として取扱つている。従つて年間二七日の事故欠勤があつたとしても、これを勤務怠慢として非難することは許されない。

二、疎明の関係<省略>

理由

一、当裁判所は、控訴人が当審において新たに提出、援用した各証拠を参酌して検討を遂げた結果、次に補足するほかは原判決理由中に記載せられたところと同一の理由により、控訴人の仮処分申請は理由がないとの判断に達したから、右理由の記載をここに引用する。

補足する点は次のとおり。

(解雇の相当性を判断する基準)

(一)  控訴人は、解雇の相当性を判断するについては、当事者の利益の均衡を先ず考えなければならない。このことは臨時工の場合においても同様であるにも拘らず被控訴人が本件解雇の相当性を主張するに当つて控訴人の蒙るべき損失を考慮しないのは不当である、と主張するので、この点について判断する。

期間の定のない雇傭契約においては、使用者は民法第六二七条第一項により解雇の自由を有するものであり、その解雇権の行使については労働基準法第一九条第二〇条の制限に従うほか、解雇権を行使するについての正当の事由の存在を必要としないものと解すべきである。ただ私権の行使一般に通じる原理である権利の濫用の法理の適用として、解雇権の行使が権利の濫用にわたると認められる場合には、解雇が無効とされるにすぎない。従つて如何なる場合に解雇権の行使が権利の濫用となるかを判断するについても、右のように本来解雇権の行使は自由であるとの原則の上に立つてこれを行わなければならない。右の立場に立つて考えるときは、一般に解雇権の濫用が認められるのは、解雇権の行使が他人に害を加えることのみを目的として行われた場合、又は公序良俗に反し或は公共の福祉を侵害するような場合等である。しかしてこのことは本工の場合たると臨時工の場合たるとを問わないのである。これを本件についてみるに、原判決理由中に説示されているように、控訴人には無届欠勤が三五日(控訴人に認めらるべき年次有給休暇日数六日を差引いてもなお二九日)あり、且つその結果被控訴会社の業務の遂行に支障を来すことが多かつたのであるから、被控訴人の本訴解雇権の行使は控訴人に害を加えることのみを目的としてなされたものとは到底考えることができず、また右解雇により控訴人が蒙るべき不利益を併せ考えても、公序良俗に反し、或は公共の福祉を侵害するものとは認められないから、右解雇をもつて解雇権の濫用となすことはできない。しかしてこのことは、控訴人が本工であると仮定した場合にも同様であるから、本件解雇をもつて解雇権の濫用にあたらないと認定しても、これをもつて臨時工に対する差別的取扱ということができないこと勿論である。

(欠勤日数等について)

(二) 控訴人は控訴人の欠勤日数は合計一四日であると主張し、その根拠として疏甲第一号証および第三号証を挙示し、疏乙第三号証の一乃至一二、第五号証の一乃至三、第八、九号証の各一、二、第一〇号証、第一一号証の一乃至一四は、いずれも被控訴人において本件提起後に被控訴人の主張に合うように変造または新たに作成した疑があるから信用できない旨主張する。然し乍ら前顕疏甲第一号証および第三号証によれば欠勤日数が病気欠勤および事故欠勤を合せて一四日にすぎないように見えるがその記載が誤りであることは原判決理由中において説示するとおりであり、また前顕疏乙各号証が、控訴人主張のように被控訴人において本訴係属後に被控訴人の主張に合うように変造または新たに作成した疑があるとの控訴人の主張については、その証拠としては原審並びに当審における控訴人本人尋問の結果(ただし、原審は第一回)があるのみであるところ、右供述を裏付けるに足る客観的事実は何も認められないから、右供述はたやすく措信することはできない。結局控訴人の前記主張は理由がなく、控訴人の欠勤日数は三五日(控訴人に認めらるべき年次有給休暇日数六日を差引いてもなお二九日)であるといわなければならない。しかも、控訴人の右欠勤により被控訴会社の業務に支障を生じることが多かつたことは原判決理由中において説示したとおりであり、また控訴人の勤務態度について被控訴会社から何度も注意を与えていることは原審証人小出唯一郎、同小柳津善司の各証言により認められるところである。(原審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、右各証言に対比し、また勤務態度が不良な工員に対し、会社側において全く注意を与えないというようなことは通常考えられないから、にわかに措信できない。)

(生理休暇について)

(三) 控訴人は仮に控訴人の欠勤日数は三五日(内事故欠勤二七日)としても、控訴人は法律に従い必要な生理休暇をとる権利があり、その日数は月二回乃至三回が常識である。ところが被控訴会社は生理休暇を認めず、生理のため已むなく休暇をとるとこれをすべて事故欠勤として取扱つている。従つて年間二七日の事故欠勤があつたとしても、これを勤務怠慢として非難することは許されないと主張するのでこの点について判断するに、女子労働者が生理休暇をとる権利を有することは労働基準法第六七条の明定するところであることは控訴人の主張するとおりであるが、生理休暇は当該労働者が生理日の就業が著しく困難な女子であるか、又は生理に有害な業務に従事する女子であることを要し、且つ、その者の請求をまつてはじめて使用者に右休暇を与える義務が発生するものであることも右法条の明定するところであるところ、本件の場合控訴人において右の事項に関し、何等の主張または立証するところがないのみならず、控訴人が欠勤した日のうちいずれの日が控訴人の生理日であつたかについても何等の立証がないから、控訴人の右主張は失当である。

二、以上の次第で、控訴人の本訴仮処分申請は失当として棄却すべく、右と同趣旨に出た原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小沢文雄 池田正亮 宇野栄一郎)

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